大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和43年(ワ)49号 判決

原告 岩松近人 外四名

被告 鹿屋市

訴訟代理人 小沢義彦 外七名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  原告らがいずれも、昭和四二年当時教職員として被告の設置する公立学校たる鹿屋市笠野原小学校に勤務し、市町村立学校職員給与負担法第一条、第三条地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四二条により鹿児島県学校職員給与関係条例の適用を受け、鹿児島県から別紙割増金等明細表〈省略〉の「本俸」欄記載の各給与を受けていたこと、原告らが笠野原小学校長の指示により昭和四二年一〇月二九日(日曜日)に午前八時一五分から午後四時五〇分まで休憩時間を除いて八時間の日曜勤務を行つたこと、鹿児島県学校職員休日休暇勤務時間条例第一条、第三条によれば、鹿児島県学校職員給与関係条例の適用を受ける学校職員は日曜日には勤務を要しないと定められ、したがつて日曜日は原告らにとつては労働基準法第三五条の休日に該当すること、一〇月二九日が日曜日であるにかかわらず原告らが学校長の指示により勤務を行つたのは、同日に鹿屋市、鹿屋市教育委員会等五団体が主催する第七回鹿屋市民体育大会兼第二一回鹿屋市内小中高校陸上記録大会が鹿屋市営グランドで挙行され、原告らの勤務する笠野原小学校の児童もこれに参加したので原告らもその勤務を行つたものであることおよびこれと引かえに翌一〇日三〇日が休校日とされたので原告らは同日勤務しなかつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  地方公務員法第二四条第六項、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四二条によつて、原告ら県費負担教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は都道府県条例で定めることとされており、休日振替が勤務条件に含まれることはいうまでもない。

被告は、鹿児島県学校職員休日休暇勤務時間条例第一二条第二項をもつて、学校長に休日の振替を行う権限を認めた規定であると主張するが、右規定は、同条例第一二条第一項の規定と合わせて考えると、勤務を要する日の勤務時間の割振の権限を学校長に認めたに過ぎないものであつて、勤務を要しない日と勤務を要する日との振替(休日振替)の権限まで学校長に認めたものと解することは相当でないから、被告の右主張は採用できない。そして、右条例中には、他に休日振替に関する明文の規定はない。原告らは、右条例が休日振替について明文の規定を設けなかつたのは、以前鹿児島県教職員組合と鹿児島県の間の労働協約で、休日振替は行わないと定められていたので、法律の改正によつて右労働協約が失効した後も、右の趣旨を維持し、休日振替は行わないという趣旨で、明文の規定を設けなかつたものであると主張するが、原告らの右主張のような労働協約の定めがあつたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、〈証拠省略〉を総合すれば、右条例が制定された昭和二七年四月一日の前後を問わず、鹿児島県内の公立小、中学校において学校行事として行われる運動会、学芸会、修学旅行等が、父兄の参観を得るため(運動会、学芸会)、あるいは日程、交通事情のため(修学旅行)日曜日に実施されることがあり、これらの場合、学校長が職員会議に諮つて休日の振替をすることが珍しくなかつたにかからず、昭和四一年頃までは、県教育委員会、学校長、教職員のいずれからも右のような場合の休日振替を違法とする見解が出されたことはほとんどなかつたことが認められるから、原告らの前記主張も採用できない。また〈証拠省略〉によると、鹿児島県の、職員の休日、休暇及び勧務時間等に関する条例(昭和二六年条例第一四号、学校職員を除いたその余の職員に適用される)には、第一一条に、「任命権者は公務のため必要のある場合には、第一条(国民の祝日に関する法律に定める日を休日とする旨の規定)、第二条(原則として日曜日を職員の勤務を要しない日とする旨の規定)及び第四条(年末年始の有給休暇日を定めた規定)の日に勤務させることがあるものとする。」と定め、休日勤務、休日振替を行うことがあることについて明文の規定を設けていることが認められ、原告ら学校職員に適用される前記条例には右のような明文規定がないのであるから、学校職員については公務上必要があるからといつて任命権者が一方的に休日の振替を行うことはできないものと解されるが、そうだからといつて、休日振替についての明文の規定がないことから直ちに、学校職員については休日振替を行うことを全面的かつ積極的に禁止したものであると解することはできない。

ところで、労働基準法は地方公務員法第五八条第三項によつて定められている適用除外規定以外は原告ら公立学校教職員にも適用されるものであり、鹿児島県学校職員休日休暇勤務時間条例第三条の「日曜日は勤務を要しない日とする。」という規定が、労働基準法第三五条第一項の週休制の原則を定めた規定の趣旨にしたがつた規定で、労働者としての教職員の利益保護を目的とした規定であることは明らかであるが、労働基準法には、休日を予め特定すべきことを定めた規定、休日の振替を禁止した規定はいずれもなく、同法第三五条第二項によつて、週休制の原則を定めた同条第一項の規定は訓示規定と解されることからすれば、予め特定曜日を毎週休日とするという休日特定の利益は、労働者の同意を得た場合においてもなお失わせることができない利益であるとはいえないから、前記条例に休日振替についての明文の規定がないけれども、少くとも個々の教職員の同意を得た場合においては、労働基準法第三五条第二項の制限の範囲内で休日の振替を行うことはできるものと解するのが相当である。

三  〈証拠省略〉を綜合すると次の事実が認められる。

昭和四二年一〇月二九日開催された第七回鹿屋市民体育大会兼第二一回鹿屋市内小中高校陸上記録大会は、鹿屋市内の小中高等学校の選手および応援の児童生徒、ならびに婦人会、消防団等一般市民が参加して行われたもので、同市におけるスポーツ行事としては大規模のもので、大会発足以来少くとも昭和四二年までは例年一〇月ないし一一月中の日曜日に行われ、笠野原小学校も少くとも昭和三八年以降は毎年参加していた。昭和四二年度の右大会の開催日が前記の日と決定されたが、昭和四二年になつて、鹿児島県下の公立学校で、学校行事等のために休日振替を行うことに対して当該学校の教職員から反対の意向が表明された事例が現われ、そのような場合には、学校行事等を休日に行わないようにするよう県教育委員会から学校長に対する指導がなされていたので、笠野原小学校長大園裕義は、右大会参加のために従前のように休日振替を行うことによつて、後日教職員との間で紛争が発生するようなことを防止するため、同年九月一〇日(日曜日)に行われた水泳大会への参加と同様に、右体育大会、記録大会に参加する教職員は自主参加(参加者がみずからの意思で参加するもので、休日振替を行わないから振替休日は与えられない)されたい旨を同校教職員に伝えた。ところが、同校の鹿児島県教職員組合に属する教職員から校長大園裕義に対して、右大会を日曜日に開催することは好ましくないので、翌年度以降は日曜日以外の日に開催されるようにしてほしいが、既に開催日が決定された同年の右大会に参加する教職員については、自主参加とするよりもむしろ休日振替を行い、かつ日曜出勤として割増賃金を支払つてほしいとの意見が表明された。そこで、同校長は職員会議を開き、同校全教職員が出席した右職員会議において、右大会参加のため休日を一〇月三〇日に振替え、一〇月二九日を出勤日とすることを諮つたところ、一部教職員から、右大会が日曜日に開催されることは教職員の勤務のうえで好ましくないとの意見が出されたが、右大会に参加するため一〇月二九日の休日を一〇月三〇日に振替えることについては別段反対意見は出されなかつたので、同校長は休日振替に異議がないものと認め、右の休日振替を決定し、一〇月二八日鹿屋市教育委員会にその旨の届を出した。一〇月二九日は同校長の指示により笠野原小学校では、大会出場選手たる一部児童および引率教職員若干名が直接右大会に参加したほかは、第一時限のみ正規の授業を行い、第二時限以降は正規の授業にかえて教職員および四年生以上の児童は応援のため右大会に参加し、三年生以下の児童は帰宅した。

以上の事実が認められ、原告岩松近人本入の供述のうち、右認定に反する部分は、証入大園裕義の証言に照らすとたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実および原告らが振替休日と指定された一〇月三〇日は勤務をしなかつたこと(この事実は当事者間に争いがない。)によると、原告らはいずれも右休日の振替に対して予め明示もしくは黙示の同意をしたものといえるから、原告らについてなされた昭和四二年一〇月二九日と同月三〇日との休日振替は適法になされたものということができる。

四  原告らは、右休日の振替は四週間を通じて休日を三日しか与えないことになるから、労働基準法第三五条第二項に違反すると主張するが、同法条にいう四週間を通じて四日以上の休日とは、どの四週間を区切つても四日以上の休日が与えられていなければならない趣旨ではなく、特定の四週間に四日の休日が与えられていれば足りると解されるところ、右休日の振替によつても原告らは一〇月二九日を始期とする四週間に四日の休日を与えられていることが明らかであるから、原告らの右主張は採用の限りではない。

五  結論

以上の次第で、原告らについてなされた昭和四二年一〇月二九日と同月三〇日の休日の振替は適法であり、一〇月二九日は日曜日ではあるが原告らにとつては労働基準法上の休日にあたらず、したがつて一〇月二九日が原告らにとつて休日であることを理由とする原告らの本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺井忠 井土正明 楠井勝也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例